相続の委任状は「自作でよいもの」と「所定用紙でないと通らないもの」に分かれる
相続の手続きを誰かに代わってもらうとき、委任状は一種類ではありません。自分で書いた委任状がそのまま通る手続きと、提出先が用意した用紙でなければ受け付けてもらえない手続きが混在します。 ここを分けずに一枚だけ作って持って行くと、窓口で出し直しになります。
見分け方は提出先の種類で大きく変わります。金融機関は、様式を配っていればその用紙が必須と考えてください。 一方、法務局と市区町村は、様式や記載例を配っていても自作の委任状を受け付けるのが一般的です(自治体には「書式は問わない」と明記しているところがあります)。どちらとも判断がつかないときは、提出先に「自分で作った委任状で受け付けてもらえますか」と一言確認するのが確実です。
手続き先別・委任状の扱い
| 手続き | 委任状の扱いと注意点 |
|---|---|
| 相続登記(不動産の名義変更) | 自作でよい。 法務局は申請書の様式は配っているが、委任状の様式は配っていない。押印は認印で足りる |
| 法定相続情報一覧図の申出 | 自作でよい。 法務局が記載例を公開している。押印は不要(後述)。ただし代理人になれる人に制限がある |
| 住民票・戸籍・除籍謄本の取得 | 多くは自作でよい。 様式を配っている自治体でも「用紙・書式は問わない」としていることが多い。一方、委任者本人が全文を手書きすることを求める自治体もあるため事前に確認する |
| 銀行・信用金庫の相続手続き | 所定用紙と考えて先に取り寄せる。 相続専用の用紙が一般の委任状と別に用意されていることがある(ゆうちょ銀行は「委任状」と「委任状(相続手続用)」を別様式で配布している) |
| ゆうちょ銀行 | 所定用紙が必須。 さらに「手続きを委任する方がすべての欄を自筆で記入のうえ捺印」が条件で、パソコンで作った委任状は使えない |
| 証券会社の相続手続き | 所定用紙と考えて先に取り寄せる。 口座のある会社ごとに様式が違う |
自作でよい手続きから先に片付け、金融機関へはまず電話をして用紙を取り寄せる——この順番にすると、待ち時間が重なりません。
自作でよい場合の書き方
法務局が公開している法定相続情報一覧図の委任状の記載例には、次の6つが入っています。相続の委任状はこれらが揃っていれば体裁として十分です(被相続人と委任事項の前後は入れ替わっても差し支えありません)。
- 表題(委任状)
- 代理人の住所・氏名
- 被相続人の最後の住所(または本籍)・氏名・死亡年月日
- 委任する権限(箇条書き)
- 委任日
- 委任者(相続人)の住所・氏名
普通の委任状と違うのは 3番の「被相続人の情報」が要るところです。誰の相続についての委任なのかが特定できないと、手続き先は受け取れません。
例文1: 相続登記を親族に任せる
委 任 状
【代理人】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○
私は、上記の者に対し、下記不動産に係る相続登記の申請に関する一切の権限を委任します。
【被相続人】 最後の住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○ 死亡年月日 令和○年○月○日
【対象不動産】 所在 ○県○市○町 地番 ○番○ 種類 宅地(○○.○○平方メートル)
【委任事項】 1 上記不動産についての相続を原因とする所有権移転登記の申請 2 登記識別情報通知および登記完了証の受領 3 添付書類の原本還付請求および受領 4 上記に付随する一切の事項
以下余白
令和○年○月○日
【委任者】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○ 印
※親族に登記申請を任せること自体は差し支えありませんが、業として(反復継続して、または報酬を得て)登記申請を代理できるのは司法書士等の資格者に限られます(司法書士法第73条)。1回限り・無報酬で親族に頼むぶんには問題ありません。
例文2: 法定相続情報一覧図の申出を任せる
委 任 状
【代理人】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○
私は、上記の者に対し、下記被相続人の相続に係る次の権限を委任します。
【被相続人】 最後の住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○ 死亡年月日 令和○年○月○日
【委任事項】 1 法定相続情報一覧図を作成すること 2 法定相続情報一覧図の保管および一覧図の写しの交付の申出をすること(交付通数 ○通) 3 法定相続情報一覧図の写しおよび返却される添付書面を受領すること 4 上記に付随する一切の権限
以下余白
令和○年○月○日
【委任者】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○
※この手続きの委任状は記名のみで押印は不要です(令和3年4月1日以降)。法務局の記載例にも押印欄はありません。
例文3: 自治体で戸籍・住民票を代わりに取ってもらう
委 任 状
【代理人】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○ 委任者との関係 長男
私は、上記の者に対し、下記の手続きを委任します。
【委任事項】 ○○市役所における、下記の証明書の交付申請および受領に関する一切の手続き ・被相続人○○ ○○の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 各1通 ・被相続人○○ ○○の住民票の除票 1通
【有効期限】 令和○年○月○日まで
以下余白
令和○年○月○日
【委任者】 住所 ○県○市○町○番○号 氏名 ○○ ○○ 印 生年月日 昭和○年○月○日 電話番号 000-0000-0000
※住民票の写しや戸籍証明書の交付申請については、委任状の押印を廃止した自治体が多くあります(府中市は「押印不要」と明記)。一方、印鑑登録の手続きのように押印が必要な窓口業務も残っています(この場合に押すのは認印ではなく、登録する印鑑そのものです)。提出先の案内を確認し、不要なら押印欄ごと省いてかまいません。
相続の委任状でつまずきやすいところ
誰でも代理人になれるとは限らない
法定相続情報証明制度では、委任による代理人は 申出人の親族か、資格者(弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士)に限られます。 「親しい知人に任せる」は通りません。相続登記や証明書の取得にこの制限はありませんが、手続きによって代理人になれる範囲が違うことは知っておく必要があります。
押印の扱いが手続きごとに三通りある
相続の委任状の押印は、次の三つに分かれます。ここを一律に考えると、要らない印鑑証明書を取りに行ったり、逆に押し忘れて出し直しになったりします。
| 押印の扱い | 手続きの例 |
|---|---|
| 押印は不要 | 法定相続情報一覧図の申出(令和3年4月1日以降・記名のみ)。住民票の写しや戸籍証明書の交付申請も、押印を廃止した自治体が多い |
| 認印で足りる | 相続登記(不動産の名義変更) |
| 実印+印鑑登録証明書を求められることが多い | 銀行・証券会社などの相続手続き(提出先の案内に従う) |
戸籍の原本は一組しか手元にないと使い回せない
相続手続きを自分で進めた方が、ご自身のブログで注意点として挙げていることがあります。戸籍書類を1セットしか持っていないと「A銀行で手続き→原紙返送待ち→B銀行で手続き」となって並列処理ができず日数がかかる、というものです。また、残高証明書と経過利息計算書は必要なものを最初にまとめて依頼したほうがよく、経過利息計算の依頼には手数料が3,300円かかった例も挙げられています(還暦後の生き方を探し求める旅人のブログ「相続の手続きを自分でやってみた」)。
ここから引き出せる実務上の答えは二つです。法定相続情報一覧図を先に取っておくこと——一覧図の写しは必要な通数を交付してもらえるので、戸籍の束そのものを何セットも用意しなくても金融機関を並行して回れます。そして 窓口へ行く前に「その手続きで必要なものを全部」聞き出しておくことです。委任状そのものは自作であれば何枚でも用意できるので、提出先ごとに1枚ずつ作っておきます。
委任事項は「どの手続きか」まで書く
「相続に関する一切の件」だけでは、提出先によっては受け付けられません。どの不動産か、どの口座か、どの証明書を何通か——代理人が窓口で何をするのかが読み取れる粒度まで落とします。書き終えたら 委任事項の最後に「以下余白」 と入れて、あとから書き足せないようにします。
避けたい書き方
| 避けたい書き方 | なぜ避けるか |
|---|---|
| 「相続手続きの一切を委任します」だけで終える | 何の手続きか特定できず、窓口で受け付けられないことがある |
| 提出先に確認せずパソコンで作る | ゆうちょ銀行のように全欄自筆・捺印を条件にしている先がある |
| 被相続人の氏名・死亡年月日を書かない | 誰の相続についての委任か特定できない |
| どの手続きでも実印と印鑑登録証明書を用意する | 押印そのものが不要な手続きもあり、手間と費用が無駄になる |
| 空欄を残したまま代理人に渡す | あとから書き足せる状態は、委任した本人にとっても危険 |
| 消えるペンで書く | 改ざんを疑われる。自治体も名指しで注意している |
参考
- 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」(委任による代理人になれる人の範囲)
- 法務局「委任状の記載例(法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出)」(PDF・記載事項と代理人の制限)
- 法務局「不動産登記の申請書様式」(申請書の様式は配布されているが、委任状の様式は含まれていない)
- ゆうちょ銀行「委任状について」
- 杉並区「委任状の書き方」(用紙・書式は問わないとする自治体の例)
- 府中市「委任状について」(住民票の写し・戸籍証明書の交付申請は押印不要とする自治体の例)

